恩人の葬儀

  • 前の仕事で大変お世話になりご恩を感じている方が亡くなった。63歳だった。ちょっと早すぎる最後だった。癌で長いこと闘病していたけど、死因は心筋梗塞だったらしい。
  • 俺が入社したとき、彼はうちの会社他数社を担当している仕入担当の係長だった。もの凄く何でも知っていて、もの凄く回転の速い人というのが第一印象。その後、幾多の困難を彼の叱責を受けながら何とかこなしてきた。
  • 俺も可愛がって貰えていた。と同時に多くの人を可愛がっていた。部下からの信望は厚かった。他部門からの信頼もあった。上司からは頼りにされていたけど、刃向かってばかりいるように見えた。だから出世しなかった。
  • 今、彼は既に定年退職していて同じ業界の少し毛色の違う仕事をしてたらしい。
  • 俺は去年の九月に今までの仕事を畳んでいる。事業を辞めた後、何度か飲みに行こうって話は持ち上がったんだけど彼の体調が思わしくなかったりしてそれは叶わなかった。
  • 彼の属していた事業体は大資本に翻弄され再編され彼の仲間は殆どが遠方に転属になっている。葬儀は思いの外、寂しかった。けど、集まっている人はみんな心から彼を偲んでいるように見えた。
  • 葬儀の後、数人で飲み直した。楽しい話が続いたけど時折故人を思い出して誰かがうるっとする、みたいな飲み会だった。それはそれで楽しかった。いい思い出になった。
  • バブル前ぐらいまでの良い時代。日本の会社は家族みたいだった。その家族みたいな会社の中で、みんな仲良く楽しく、それでも馴れ合わずに仕事出来ていた時代の象徴的な人だった。彼の仕事のやり方は段々と古くなっていたけど多くの人が彼と仕事をしたことを誇りに今も生きていると言うことが確認出来た。
  • 恩のある彼に謝りたかった。「折角、面倒見て貰ったのに事業の継続が出来ませんでした。すみません」って。「ばかやろう。お前がしっかりしてないからこんなことになったんだ」って叱られたかった。
  • ○○さん。あなたが教えてくれた事をあなたの業界で発揮することは出来なくなってしまいました。けど、他のところで活かしてます。これからも活かしていきます。一緒にと顔を突き合わせて仕事していた時に判ってなかった多くのこと、叱られたけど意味がよくわからなかったこと、今となっては骨身に染みてわかるようになりました。長い間、本当にありがとうございました。