トヨタのこと


アメリカ人はGMが破綻したことについてナショナリズム的に傷ついていた。トヨタの車は良い車だけどGMを追い込んだ主犯だ。欠点がない。憎たらしい。けど良い車だからそこそこ売れていた。どこかで面白くないと思いながら。

そして、トヨタがアクセルだかフロアマットだかの件で事故を起こした。幾つかの事故は本当に起こったのだろう。トヨタの車に非はあったけど何処までの問題かは深く調べていないから俺は判らない。けど、トヨタの車はアクセルが危ないって話が伝搬するとそれが原因ではない事故まで、アクセルのせいにされることは充分にある。事故を起こした本人が「アクセルを離したのに加速が止まらなかった」って言えば人身事故を起こしても無罪放免になるかもしれない。理由があれば人はそれに逃げるのだ。特にアメリカ人はエイリアン・アブダクション*1って現象を発明しちゃったぐらい思い込みの激しい人たちであることを忘れてはならない。

同様な事故はアメリカ全土で20例ぐらい確認されているという。そのうち半分近くがトヨタ車だって話をどこかで聞いた。なんだ、全部じゃないのかと言いたい。なんか、三菱車の炎上みたいな話*2だ。

かくしてアメリカ人のトヨタに対するルサンチマンはちょっとした梃子の支点を得て不信感へと発展した。それは瞬く間に世界へ広がり当然、日本にも伝搬する。

プリウスの不具合はABS作動時の不具合だと理解している。ABSってブレーキがロックしたときにそれを回避する技術だ。そもそも、ブレーキをロックさせるような運転は下手くそか、ガンガンぶっ飛ばしてるかどっちかだ。当然、着いてない車もある。そのような非常事態に動作するABSの動作が少し遅れるというのは不具合の中でもかなり軽微だ。ところが世界中を席巻しているトヨタに対する不信感はそれをリコールへと追い込んでしまった。

けど、トヨタを追い込んだのはヒステリックな世論であってトヨタは被害者だから可哀想、とか言うつもりは全然無い。

「危機管理」って言葉がよく聞かれる。今回の件を見てトヨタは危機管理がなってないと。この言葉はリスクマネージメントとクライシスマネージメントがごっちゃになって言ってる人たちもよくわからないまま使ってる言葉ではないか。

リスクマネージメントは予想されるリスクに組織的に対処すること。Xが発生したらAの手順で対処する、みたいにイベントとプロシージャを予め定めておくことだ。一方、クライシスマネージメントというのは「予想不可能」な不利益に対してどう対応するか。企業や組織のトップの地力みたいな物が試される事だと俺は理解している。

さて、今回のトヨタのこれはリスクマネージメントが出来ていなかったのか、それともクライシスマネージメントなのか。一般的にはクライシスマネージメントの領域と捉えられがちな事象のように思う。ただ、メディアの炎上というのは度々発生しているのでそろそろ予想しうるリスクとして対処すべきではないのだろうか。

このように企業が不祥事を起こしたとき、世間は「このくらいの事が起こったんだからこのくらいの謝罪とかこのくらいの補償とかがあるべきだろう」という期待値を持つ。企業はこの期待値を下回った対処を行ってはいけない。期待値を少しだけ上回る対応が必要になる。期待値はどの辺にあるかなんてちょっとリサーチすればすぐに判りそうなもんだ。今回、それをトヨタはしなかった。ここはリスクマネージメントの範疇に納まるし、納めるべきである。

一方、ガスファンヒーターの一件でパナソニックは期待値を大幅に上回る対応を行った。これはこれでパナソニックは大きな不利益を被らずに住んだのだが、その後に起こる不祥事に対する期待値を上げてしまったとも言えよう。そういう意味でトヨタパナソニックの被害者なのかもしれない。

トヨタが最初に開いた記者会見で豊田社長が出てこなかった。なんたら常務が出てきた。俺は「あれ?社長じゃないの?」って思った。恐らく多くの人がそう思ったはずだ。トヨタの上層部がそこに思いが至らなかったのはミスだったんだ。ミスは再発防止をしなければならない。一番、強くそれが判っているのはトヨタであるはずだ。

*1:エイリアン・アブダクション=宇宙人による誘拐事件はアメリカだけで発生しているらしい

*2:三菱車が炎上したって連日ニュースになっていたときは他の車が炎上してもニュースにならなくて三菱車だけがニュースになった